第14回安比夏季セミナー
「スポーツ障害に対するペインクリニック」page3

 スポーツ選手の急性腰痛症の大半を占めてるのは、筋・筋膜性腰痛であり、傍脊柱筋への過度の機械的ストレス、あるいは、繰り返しの疲労によって、拘縮を生じたり脊髄神経後枝が刺激を受けて発症します。その他に、椎間関節性、椎間板性、仙腸関節性の急性腰痛の発症があります。
 急性腰痛症の治療は、安静、NSAIDS、ブロック療法などと保存的に行います。慢性腰痛症は損傷の繰り返しによる慢性化や長い時間の同一姿勢あるいは同一動作の繰り返しが原因で起こり、さらには筋力の低下を来たし難治性障害となります。
 慢性腰痛症の治療に先立ち鑑別診断が大切です。薬物療法、ブロック療法、体幹周囲筋の強化とストレッチングに加えて先に紹介したHEARを組み合わせて行います。
 Trigger point注射は、整形外科やペインクリニックでは非常に施行頻度の高い治療法です。Trigger pointは、局所の皮下の過激点をいいまして、筋肉の起始・停止部、末消神経の走行部、神経の筋膜や靱帯の皮下への貫通部位、さらに靱帯や腱の付着部などに一致して見られます。注射針の挿入は素早く行い、ゆっくり抜く・「速刺緩抜・そくしかんばつ」、がトリガーポイント注射のコツです。
 椎間関節ブロックについてです。
圧痛のみられた椎間で、尾側棘突起の下1/2の線上で、正中から1〜2cm外側の点が刺入点です。初め皮膚に直角に針を進め、一度椎弓後面にあてます。その深さを指標として針先を頭外側に向け椎間関節内に刺入します。関節周囲の靱帯を貫く時、独特な感触があります。x線透視下で行う方も多いと思います。
 選択的神経根ブロックも透視下で行われます。佐藤らは容易に皮膚刺入点を決めることができ、一次元的に針を刺入する斜位直接刺入法を報告しています。
 硬膜外ブロックは穿刺部位により腰椎と仙骨硬膜外ブロックに、注入法により1回法とカテーテルをもちいた持続法とがあります。
 仙骨硬膜外ブロックは、使用頻度が高いブロックで、体位は腹臥位で、骨盤のところに枕を入れて臀部を出っ張らせておきます。左右の後上腸骨棘と仙骨角をマークしていますが、これらを結ぶとほぼ正三角形になります。仙骨角を左の示指と中指で触れ、仙骨裂孔を確認し、1回法では、はじめから23Gのブルー針を用い10ml注射器で刺します。仙尾靭帯の注入抵抗を感じながら、抵抗消失法の仕方で針を進めます。急に抵抗が消失し「カツン」と骨面にあたった部位が目的の硬膜外腔です。仙骨管内に沿って針先を頭側に進める必要はありません。吸引テストで血液の逆流のないことを確認し1%メピバカインを注入します。
 硬膜外ブロックの合併症は、くも膜下ブロック・脊麻後の頭痛、神経穿刺、硬膜外血腫、さらに感染が見られ、硬膜外膿瘍 の発生は、0,3%と言われていますが、最近、硬膜外膿瘍報告例が多く見られます。感染予防には十分な配慮が必要です。その他に予防のコツとしては、初めての患者さんには、うすめの濃度・0.5%メピバカインでのブロックをお勧めします。
 スポーツ障害が原因で入院治療した腰椎椎間板ヘルニアが10例みられました。男性7例、女性3例で、平均年齢は29才でした。職業をみるとスポーツ指導者が3例、体育教師が2例、学生運動部員が3例、また、プロスポーツ選手が2例おりました。これら10例中で、保存療法で9例は治りましたが、1例は手術を勧め行っています。全例ともにスポーツに復帰していました。
症例は、37歳 男性 プロ競輪選手です。
平成3年4月14日 競輪中に急に腰の脱力感を憶えたが競技は続けました。翌日ランニングをしていたら 腰痛と左下腿の激痛のために歩行できなくなり、他医からの紹介で 4月17日入院しました。 痛みは非常に激しく のたうち まわる状態でした。vijuale analoge scale 100
  所見  SLRテスト 右60度 左30度  JOAスコアー  5点/29満点
MRI ではL4/5椎間板レベルで脱出しているヘルニア像がみられます。
脊髄造影像 
側面像では前方からの硬膜管の圧排像がみられ、また正面像では左L5神経根嚢像欠損と、その内側のS1神経根嚢像の圧排像を認めます。治療経過
 腰部持続硬膜外ブロックを26日間施行 JOAスコアー初め5点が2週後20点 4週後25点と良くなつています。改善率は88% VAS10ー03年後の追跡調査でも自覚症状の点数は退院時9点が8点と保たれていて勿論、競輪選手として復帰し活躍しています。
 上肢になりますが、肩関節は人の関節の中で最も大きな可動性と同時に、上肢の支持性が求められている関節です。スポーツ障害として野球肩、インピンジメント等の他に絞扼性神経障害として、肩甲上神経、腋窩神経、長胸神経での障害がみられます。肩スポーツ障害を引き起こす種目です。投げる動作:野球 ソフトボール バスケットボーリング 砲丸投げ 円盤投げなど、打つ動作:バトミントン ゴルフ テニス、バレーボール ボクシングなどで多く見られますが、その他、水泳・体操などでも頻発します。
 野球肩ですが、前方の障害として、上腕二頭筋長頭炎、腱板の炎症や損傷、鳥口突起炎が、後方の障害としてはBennett病変が、また、関節の骨障害では、上腕骨近位骨端線離開であるリトルリーグ肩などがみられます。腱板の炎症と損傷および肩峰下滑液包炎は、あ肩インピンジメントと呼ばれ、初期には浮腫と出血ですが、進行すると線維化、腱板炎さらに腱板断裂をきたします。症状は肩峰下有痛弧subacromial painful arcと肩の動きに伴った摩擦音が特徴的です。
肩甲上神経は、知覚神経・運動神経さらに交感神経線維を含む混合性神経であり、肩甲切痕部での繰り返される神経過伸展により障害を受けます。症状は:棘上筋・棘下筋の筋萎縮 があり、肩の疲労感・脱力感を伴い圧痛がみられます。腋窩神経は上腕骨頭の前方で牽引され、肩関節が挙上していくにつれて四辺形間隙が狭小化し絞扼されることで障害されます。症状は、上腕外側の知覚障害と圧痛さらに三角筋と小円筋の脱力を伴います。
 肩関節スポーツ障害の治療で用いられるブロックは、トリガーポイント注射、肩甲上神経ブロック、腋窩神経ブロック、星状神経節ブロック、浅部頸神経叢ブロックなどがあります。  肩甲上神経ブロック手技の体位は坐位で、両手を膝に置いて、頚を軽く前屈して行います。使用薬剤は1%メピバカイン5?、ブロック針は23G、6pを用います。肩甲棘の上に、内側縁Aから肩峰=Bにいたる線を引き、この中点をもとめ、この中点を通り脊柱に平行な線=Fを引き、この交差によりできる外上角の2等分線の上に、交差点より2.5p離れた点が刺入点です。肩甲上切痕をめがけるので、針は下内側に向かいます。患者さんが肩関節前方への重い響きを感じます。針を無理に肩甲切痕に誘導し神経に当てる必要はありません。
 ブロック後は20分間はペット上で観察します。効果は痛みの消失と棘上筋・棘下筋の筋力低下で判定します。このブロックは、絞扼神経障害には直接的治療となりますし、五十肩の際には、両手でメデシンボールを持たせ関節可動域改善を図るのにも有用です。
 肩甲上神経ブロックの合併症は、気胸と血管穿刺による血腫です。気胸は針を前上方に向け深く刺し過ぎた時におこりますので、予防するコツは最初に針をやや尾側に向け確実に棘上窩にあて、その深さを知っておき、それ以上は決して深く刺入しないことです。
腋窩神経ブロックの体位は座位で、薬液は1%メピパカイン5?、針は23G、3.2pのブルー針です。四辺形間隙を確認しブロックを行います。ブロック後は15分間のベット上安静として、効果の確認は肩外側部の知覚麻痺と外転・外旋筋力低下で行います。腋窩神経ブロックの合併症は、血管穿刺であり、予防は吸引テストを行うことです。

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