第14回安比夏季セミナー
「スポーツ障害に対するペインクリニック」page2


 次に教義のスポーツ障害に対するペインクリニックについて脊柱・上肢・下肢の部位別にお話しいたします。
脊椎の解剖
  頚部のスポーツ障害としては、神経根症を呈してくるのに頚椎椎間板ヘルニアと頸椎症性のものがあり、さらに胸郭出口症候群、頸椎捻挫があげられます。
頚部スポーツ障害を好発する種目は、ラグビー、アメフト、相撲などのコンタクトスポーツとゴルフ、体操、水泳などです。
頸椎椎間板ヘルニアは、繰り返しの小外傷によって線維輪に亀裂をきたし、髄核が脱出して症状をきたすものです。
39歳の症例。胸郭出 口症候群は解剖学的な素因に繰り返し加わる動的ストレスによって発症し、痛み、しびれ、脱力と自律神経症状を伴います。なで肩 まる肩 翼状肩甲 筋肉発達などを呈し、頸椎後屈制限がみられ、X線:第一肋骨奇形や頸肋を認めることがあります。
 岩手医大では胸郭出 口症候群402例中7例で、1.8%がスポーツで発症していたと報告しています。解剖学的な素因に繰り返し加わる動的ストレスの他に、外傷による筋損傷・浮腫・癒着が、また、筋肥大や付着部異常の斜角筋症候群も原因のことも見られます。スライドは阿部名誉教授からお借りしたものです。
 診断にはxp・MRI・血管造影あるいは腕神経叢造影等の画像を参考にしますが、胸郭出 口症候群の誘発試験であるT.Wright、Roos.  T.Eden  さらに、T.Morey テスト等が簡便で有用です。

頚部スポーツ障害の治療です。NSAIDSはじめとする 薬物療法や胸郭拡大体操など保存的治療が行われ、ブロックとしては、Triggerpoint注射、星状神経節ブロック、腕神経叢ブロック、頚部硬膜外ブロック、さらに頸神経ブロックとして浅部や深部頚神経叢ブロック等があげられます。
星状神経節ブロックについてです。
頚部の交感神経は胸郭入口より頭蓋底まで広がり、その間に3?4個の神経節を形成しています。中でも星状神経節は最も大きなもので、第7頚椎と第1胸椎横突起の前方にあります。このブロックは患者を仰臥位とし、頚部を伸展させます。胸鎖関節から2横指頭側で胸鎖乳突筋内縁に左手の示指、中指をあて、胸鎖乳突筋を外側方に圧排しながら気管、甲状腺と筋肉の間の軟部組織を押し分けるようにして、指先を患者の背側方向にもぐり込ませて行きます。従来の方法は針先を第7頸椎に誘導していましたが、ここでは第6頸椎に誘導する山室法を紹介します。
 ある程度指が入ったら、指先を揃えて体軸方向に動かすと大豆大の突起物が触れます。これが第6頚椎横突起の前結節であり、頚椎の中で最も大きなものです。この前結節に指先を固定し、針先を少し基部に誘導し、血液の逆流がないことを確かめながら、
3〜5mlの局麻薬をゆっくりと注入します。山室法は部位が浅く、また、椎骨動脈は横突孔内にあるので穿刺の危険がなく、手技は容易であります。
 これは、星状神経節ブロック時のCT像です。指先を第6頚椎横突起の前結節に固定した状態では、皮膚からC6横突起までに他の組織はほとんど介在していないのが良く分かると思います。星状神経節ブロックの効果がみられると、ホルネル三徴候、すなわち眼裂狭小、縮瞳、眼球陥凹が出現します。同時に眼球結膜の充血、鼻閉もみられ、これらは全て頚部交感神経幹の遮断による症状です。
 星状神経節ブロックの合併症は、椎骨動脈穿刺 血腫形成 気胸、反回神経麻痺 、腕神経叢麻痺、頚神経麻痺、硬膜外ブロック、クモ膜下ブロック等みられます。予防のコツは、針先をC6横突起基部に確実に誘導し、ガラス製注射器を用い、吸引テストをしています。
浅部頚神経叢ブロックについてです。
浅部頚神経叢はそれぞれのわなの浅枝より構成され、胸鎖乳突筋の後縁から皮下に出て小後頭神経・大耳介神経・頚横神経・鎖骨上神経となり、頸部から肩上部の皮膚知覚を支配しています。そのため、浅部頚神経叢ブロックの適応は多く頻用される手技です。患者を仰臥位とし、顔はブロック側の反対に向けます。胸鎖乳突筋の後縁で外頚静脈と交差した点より1.5〜2cm頭側が刺入点です。局麻薬3〜5mlを用い、筋膜の内外に注入します。良い位置に、即ち筋膜のすぐ外側に注入されると、注入薬が胸鎖乳突筋の後縁に沿ってするすると上下に拡大するのが分かります。
 浅部頚神経叢ブロックの合併症は、血管穿刺、深部頚神経叢ブロックです。予防のコツは、ブロック時の体位の際に、頭を持ち上げさせて胸鎖乳突筋と外頚静脈を確認しておくことです。
 頸部スポーツ障害におけるブロックの選択についてですが私の、第1選択は浅部頸神経叢ブロックです。神経根症ではさらに、深部頸神経叢ブロックあるいは星状神経節ブロックを行います。
  胸郭出口症候群の場合にはさらに、星状神経節ブロックを行うようにしています。なお、症状が頑固であれば、入院のうえで頸部硬膜外ブロックといたします。

  腰部のスポーツ障害としては、抗重力筋である脊柱起立筋群が強化されすぎて、前わんが増強するために腰痛症が最も多く、ほかに腰椎椎間板ヘルニア、腰椎分離症、終板障害、変形性脊椎症などが見られます。
 腰仙部においては、軸圧が椎間板への負荷として、回旋が線維輪と椎弓への負荷として、また前後屈が椎間板へと負荷が加わるので、列挙したようなさまざまなスポーツで障害が起こります。
 腰痛はスポーツ選手の60%が経験していて、発症状況は徐々に、回数は初回が幾分多く見られます。腰椎椎間板ヘルニアは頚部のものと同様に、繰り返しの小外傷によって線維輪に亀裂をきたし、髄核が脱出して症状をきたすものです。スライドは17歳、卓球のL4/5ヘルニア症例です。上位腰椎椎間板ヘルニアではFNST・femoral nerve sterech test が陽性で、大腿部から下腿内側の感覚障害が見られます。
 下位の腰椎椎間板ヘルニアではSLRTが陽性で下腿外側から後面の感覚障害が特徴的です。
椎間板ヘルニアの保存療法としては、神経根の炎症に対しては、NSAIDSやブロック療法などの治療があり、また、椎間板ヘルニアの縮小・消失を目的とした生食の椎間板注入療法があります。
分離症はその昔、先天性の病気と考えられていたのですが、現在では発育期の児童の腰椎椎弓に一種の疲労骨折が起きて分離してくるものと考えられています。その頻度は一般の人で約20人に1人であるのに対して、スポーツ選手では5人に1人と4倍も多くなっていてます。
 腰椎分離症はレ線ではっきりしない時期でもMRIのT1強調画像での低信号や,骨シンチでの取り込みなどで早期診断が可能であります。また、治療により分離部の癒合がCTでますので、早期発見と適切な治療が大切であります。
 発育期の椎体終板には、生体力学的に非常に脆弱な成長軟骨層があり、成人脊椎とはこの点で大きく異なります。発育期のスポーツ障害はスポーツ継続に支障をきたすのみならず、選手の生涯にわたり後遺症を残すおそれがあり、早期発見と早期の治療が欠かせません。
 青少年期の腰部スポーツ障害として多く見られる腰椎分離症、腰椎分離すべり症、終板障害に対して、ブロック療法の適応はないと考えています。

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