第14回安比夏季セミナー
「スポーツ障害に対するペインクリニック」page4

 肘のスポーツ障害としては、野球肘、上腕骨内側・外側の上顆炎、さらに撓骨神経・尺骨神経・正中神経での絞扼神経障害が見られます。上腕骨上顆炎は道具を使用するスポーツ・テニス ゴルフ 野球 弓道 バトミントン等で見られ、外側上顆炎はテニス肘、内側上顆炎はゴルフ肘と言われています。これら付着部症への治療としてのブロックは、トリガーポイント注射が有効です。
 正中神経が円回内筋周辺でスライドのような索状物・すなわち上腕二頭筋腱膜、円回内筋の筋膜、浅指屈筋腱の腱性起始部と交叉しながら走行するので障害をうけ易く、指の屈曲や回内運動の反覆で円回内筋症候群が発症します。スポーツ種目は、マット運動 水泳 ボーリング テニス ゴルフ ウエイトリフテイング バイク等で見られます。
治療と診断をかねての円回内筋部のトリガーポイントでのブロックを1%メピバカイン 混合ステロイド剤で行うと効果的であります。
 手のスポーツ障害としては、短母指伸筋と長母指外転筋腱などが関係するDeQuervain腱鞘炎やIntersection syndromeが多く見られます。また絞扼神経障害としては、尺骨管症候群と手根管症候群があります。指のスポーツ障害としてゴルフでのバネ指、ボーリングでのボーラー母指、柔道でのヘバーデン結節などが見られます。
 骨盤・股関節のスポーツ障害としては、恥骨結合炎○ 骨盤骨端症 滑液包炎○ 弾発股○ 疲労骨折・・恥骨・大腿骨、スポーツヘルニア○さらに、絞扼性神経障害○としては、 梨状筋症候群や知覚異常性大腿痛などがあります。
骨盤・股関節のスポーツ障害を起こす種目としては、サッカー ラグビー ホッケ ランニング  テニス 野球 ダンス  バスケット、バレー スケート ・フェンシング ・重量挙げ ・レスリングなどが挙げられます。
 大腿外側皮神経は、L2・3神経根からなる純知覚神経であり、腸骨筋筋膜下を腸骨翼に沿い前方に回り、前上腸骨棘内側で鼠径靱帯下から皮下に出て大腿前外側部に分枝しています。 鼠径靱帯での絞扼障害が知覚異常性大腿痛です。症状は大腿前外側部の焼けるような痛みや知覚異常を訴え、前上腸骨棘内下方の圧迫で放散痛を認めます。
 大腿外側皮神経ブロックの刺入点は、前上腸骨棘より2.5p内方かつ下方で鼠径靱帯直下の圧痛の明瞭な部位で、針を皮膚に垂直に刺入します。ブロックのコツは、針をゆっくり進め、大腿筋膜を破る感じを得ることであります。筋膜直下と針を抜きながら筋膜直上で扇状に動かし注入します。
 膝のスポーツ障害は、膝伸展機構の問題として、有痛性分裂膝蓋骨・オスグッド病Sinding-Larsen-・Johansson病 ・ジャンパー膝○ ・ 膝蓋骨亜脱臼等が見られます。膝周囲の腱・滑液包の問題として、腸脛靱帯炎○  鳶足炎が、さらには膝関節内の問題として、滑膜ひだ障害○・離断性骨軟骨炎・関節軟骨障害があります。分裂膝蓋骨・オスグッド病・Johansson病は、繰り返す大腿四頭筋による牽引ストレスによる過労性膝伸展機構障害であります。症状は、限局性の圧痛と一連の進行過程が特徴的です。
 伏在神経は、大腿下1/3で内側広筋と大内転筋間の厚い筋膜間・ハンター管から縫工筋下に出て、膝の内側にそって下る知覚枝です。この部位での絞扼性神経障害がハンター管症候群で、平泳ぎ テニス バレーボール バスケットなどの種目でみられます。症状は膝関節裂隙より7〜12p 中枢の内側広筋後縁での圧痛とチネルサインです。伏在神経ブロック部位は膝内側上部、膝内側下部、足関節部で行うことができます。これも浸潤ブロックですから針先を扇状に回して注入します。
 下腿のスポーツ障害は、シンスプリット○ 過労性脛部痛○ アキレス腱炎・腱周囲炎○ 疲労骨折などがあり、・陸上競技 ・サッカー ・野球  バスケット バレー バトミントン ・エアロビクス アメリカンフットボール などのスポーツ種目でみられます。シンスプリントは=過労性脛部痛と同義語に使用されることが多く、運動時および運動後に下腿の中下1/3の脛骨内側部に慢性的な疼痛と圧痛があるものをいいます。
Walshらは、疼痛の程度分類を行っていますが、Stage3 :Stage4:に対してはスポーツ活動の中止指導が必要となります。ダルビッシュ投手が準決勝で投球できなかったのはこのためです。
 スライドは脛骨・腓骨疲労骨折ですが、発症の初期では痛みのみであり、シンスプリントとの鑑別診断で悩むことがあります。
 足のスポーツ障害は、・踵骨骨端症、足根洞症候群○、衝突性外骨腫○、三角骨障害○中足骨疲労骨折、有痛性外脛骨○、第2ケーラー病  、足底腱膜炎○ 母趾種子骨障害○ 、絞扼性神経障害○ などがあります。
脛骨神経の絞扼神経障害である足根管症候群は、登山 スノーボードなど。また足関節捻挫に引き続いての発生がみられ、足趾、や足低部の痛みとしびれを呈します。総足底趾神経は深横中足靱帯の下を通り足趾に分布しますが、第3/4趾間では内側・外側足底趾神経が合流しているため神経の径が太く圧迫されやすく、ランニングなどでモルトン病がみられます。絞扼神経障害にはいずれも局麻薬とステロイド剤による絞扼部位でのブロックが効果的です。ブロックで使用する局麻薬による合併症と対策を示しますが、当クリニックでは、局麻薬自体によるものは、口腔内しびれ感と不穏がありましたが、幸い軽微であり、対処を要したものは低血圧や心因性反応でした。硬膜外ブロックによって血管が拡張し血圧の低下を起こしますので、ブロック前後の血圧の測定は重要です。患者さんがあくびをした場合は血圧低下のサインのことが少なくありません。 そのため、ブロック後の患者さんは、看護婦が一目で見渡せる大部屋で観察しています。ブロックのさいには、スライドのような足文式吸引器、あんびゅーばっく、気管穿刺のトラヘルパー、救急薬品の常備は必要です。これは仙台市医師会救急蘇生実行委員 会で有料配布してるものです。

まとめ
1.頚部・腰部ならびに上肢、下肢におけるスポーツ障害について述べた。
2.スポーツ障害の時どの科を受診しているか? 
  アンケートを行い興味ある知見が得られた。
3 .適切な診断のもとでのブロック療法は有用である。

ご静聴大変ありがとうございました。
 

〜2003/08/31/ホテル安比グランドにて〜佐々木信之


■第14回安比夏季セミナー・そのほかの講演■
・「上肢関節鏡の最近の話題」西川真史先生(弘前大学医学部整形外科・講師)
・「骨軟部腫瘍における診断・治療の基本戦略」大塚隆信先生(名古屋市立大学整形外科・教授)

・「リュウマチ性頸椎疾患の手術治療」鎧邦芳先生(北海道大学保険管理センター教授)
・「変形性膝関節症〜OAはなぜ痛いか、なぜOAになるか〜」杉田健彦先生(東北大学医学部整形外科・助教授)
・「膝外傷とスポーツ復帰」宗田大先生(東京医科歯科大学運動機能再建学・教授)



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