第14回安比夏季セミナー
「スポーツ障害に対するペインクリニック」page1


 このセミナーでお話しさせて頂くのは、7年前に1度ありましたが、今回は嶋村先生に二度目のお誘いを頂き、大変光栄に思っております。私は仙台市青葉区でベット12床の有床診療所を開業しています。
 本日は「スポーツ障害に対する
ペインクリニック」について、お話させて頂きます。少し教科書的な話が多いとは思いますが、よろしくお願いします。
(拍手!)
 スポーツ障害はトレーニングが原因となって発生し、疼痛のために、スポーツ活動あるいは、日常生活に支障が生じたものであります。スポーツのレベルは様々であり、オリンピック選手やプロを頂点とする競技者から、中学校での学校体育、最近では健康維持・増進を目的としたジョギングやバレーボールなどの社会体育でもみられるようになっています。
  1回の強い力が作用し正常な運動範囲以上の運動を強制するような力が加わって生じる骨折、捻挫、脱臼等はスポーツ外傷(傷害)と呼ばれます。これに対して、正常範囲内であるが、繰り返し反復性の力が加わって発生する疲労骨折、絞扼性神経障害、付着部症などは狭義のスポーツ障害といいます。
 スポーツ外傷の発生要因としては、スポーツ活動中、トレーニング中の強い外力や、準備運動不足、不注意などによる身体活動の協同動作の不調和、筋疲労あるいは筋力不足等があげられます。
 スポーツ外傷で、外力が加わると一時的に、血管や靱帯などの組織が損傷されます。引き続いて二次的損傷として周囲組織でも出血や浮腫の増大を来たしますが、最終的に損傷された組織は、線維化がなされて瘢痕と言う状態で治癒いたします。このスポーツ外傷における急性期には、RICE処置が欠かせないのです。

REST:  まず損傷部位の安静です。
ICE:   浮腫、出血、周辺組織の代謝抑制を目的に、受傷後2、3日間継続して行います。
COMPRESSION:  同時に組織圧を上げ、血管から損傷部位への間質液の漏出抑制がもくてきであり、圧迫包帯を行います。
ELEVATION: 静脈圧を下げ、損傷部位の疼痛を和らげ、浮腫を防止し、静脈還流の改善を図ります。また、スポーツ外傷・急性期の治療  としては、薬 物 ・Medication、注 射・Injection、牽 引 ・Traction をさらに加えてRICEMITとも呼んでいます。
 ブロックはここでの注射と理解しています。疼痛の早期除去がはかられますが、乱用には注意が必要です。

 スポーツ障害の発生要因としては、練習のし過ぎ、誤ったトレーニング、不適当なフォームが挙げられます。小外傷の繰り返しによる慢性化、骨性変化をきたしたり、さらに筋力の低下は  難治性障害の原因ともなります。
 慢性期スポーツ障害の治療は温熱  Heat、運動  Exercise、日常生活動作  ADL レクレーション  Recreationを組み合わせて行い、これはHEARといわれております。リハビリテーションにおける疼痛管理と局所の循環改善が目的であり、この時期でのブロック療法は有用であります。スポーツ障害の主訴は疼痛であることが多いのですが、スポーツ障害に対するペインクリニックは決して普及しているとはいえません。
 日常診療の中で遭遇するスポーツ障害に対して私が行っているペインクリニックについて話してみたいと思います。 
 ペインクリニックでは主に神経ブロックが用いられています。神経ブロックとは、「皮膚から神経近傍あるいは神経内に針を刺入し、局所麻酔薬や神経破壊薬を注入して、神経伝達機構を化学的に一時的あるいは半永久的に遮断すること」です。一方、原因が何であれ生体に加えられた痛みは、刺激となり知覚神経を介して脊髄を通り、脳に達し自覚されます。同時に、この刺激は脊髄レベルにおいて運動神経と交感神経を興奮させて、局所での乏血状態を作り、発痛物質を産生することで新たな痛みを生じます。これがいわゆる痛みの悪循環です。局麻薬による神経ブロックでは知覚神経における痛みの伝達を遮断するばかりでなく、運動神経や交感神経にも働き、この痛みの悪循環を断ち切ることになるのが重要な点です。

 スポーツ障害の時、どの科を受診しているか?
骨折、脱臼、捻挫、突き指、肉離れ、アキレス腱断裂、上肢の神経障害、肩・肘・膝関節の痛み、腰痛、腰椎椎間板ヘルニアなどのときに、整形外科・内科・外科・またはあんま・マッサージ・針・整骨などの代替医療へ受診するかを選択してもらいました。
 アンケートの対象は仙台大学と東北福祉大学のスポーツ部員300 (名)であり、男性 224名   女性 76名、年齢は18歳から58歳、平均年齢 20.7歳でした。部のコーチ、監督も含めています。
 愁訴全体で見るとスポーツマンは半数の方が整形外科を受診し、全医療機関では71%が受診してます。代替医療へは、29%が訪れています。
骨折・捻挫・脱臼と診療機関
骨折は上肢・下肢を、脱臼は肩関節を、捻挫は足関節捻挫をアンケートしています。医療機関を訪れるのは骨折では約90%と高いですが、脱臼・捻挫では平均的な受診率でした。
 肩の痛みでは、医療機関と代替医療の受診拮抗していました。テニス肘でも代替医療の受診は平均よりも高いものでした。上肢の愁訴では全体に医療機関と代替医療への受診率が平均的なものでした。上肢神経障害・手指のしびれ障害では内科への受診も多くみられました。
下肢の障害
アキレス腱断裂では医療機関の受診が高く96%でした。
肉離れでは平均的な受診率でしたが、膝関節痛では代替医療への受診が38%と高率でした。
腰痛
急性腰痛や慢性腰痛では整形外科よりも代替医療の受診率が高くなっていました。腰椎椎間板ヘルニアでは整形外科43%、内科9%、外科17%、代替医療31%。
 次にスポーツ障害における治療上の問題点を整理してみました。
代替施設とスポーツ指導者などの関係で、部の先輩が整骨でトレーナーであるなどの関係で、病院受診の遅れとなることがあります。
また、 レギュラー争い、奨学金、特待生などで、スポーツ障害であるがスポーツを止められないこともあります。大会直前、大会期間中の障害発生なども悩ましい問題点があります。スポーツ障害では求められる治療水準が高いのであります。
 スポーツ障害の防止には、基礎体力の向上と細やかなプログラムの作成は基本的なことであり、適当な休養、技量に応じた練習量と内容などの適切な技術指導 がかかせないのです。さらには、指導者、トレーナーとの連携、あるいはチーム医療といったものが必要でもあります。いま、医家によるスポーツ医学への積極的な取り組みの必要性が求められています。

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