「医療制度では3つの重要なポイントが挙げられる。
それは『コストとクオリティとアクセス』。
このうち2つはチョイスできるけど
3つは難しいと言われてます」


--先生が考えるいいドクター像とは?
「難しいねぇ……ただ、ひとついえるのは患者さんは当然いい医者を探す。でもねいい医者に巡り会うには患者もよくならないとダメだね。患者が賢くならなきゃ」

--賢い患者?
「素直なばっかりではだめ。それと医者に行き、1回診療しただけで『治らない』とすぐに逃げていくのは賢くない。要するに病気ってのは、その時期時期で病態が変わる。そうすると最初にかかった医者でダメ、次に行った病院でまたダメ、三回目に行った医者で治った……となると最後に診てくれた医者の印象はいいでしょ? だけど、病気の傾向からいうと、たまたま治りかけの頃に三回目の病院に行った可能性は否定できないよね、というかその可能性が一番高い。病気のパターンからいって時間が経てば治るものも多い。
だから賢い患者っていうのは、一回目の病院で不満を感じたならばもう一回訪れその不満をきちんと話す、それが賢い患者の第一歩。医者は神じゃない。治らないで困ってるなら、その不満をどんどん医者に言うべき。なにも言わないで転院を繰り返すのは本人にとってもよくない。さらにそういうふうにいろいろな病院を転々としてる患者さんに限って『自分はうまく立ち回ってる』」って錯覚してる傾向が強い」

--患者側には医師に対する不信感も多少あるのでは?
「むろんそうした患者を生み出してしまう医者側にも責任はありますよね。なぜなら最初の診断の時に、うまく話を聞いてあげられなかったり、コミュニケーションがとれてなかったり……診断そのものよりもそうした部分で患者とうまく接していなかったかもしれない。そしてそれが不信感を募らせる……だからきちんと理解しあえれば、患者も『実は先生、こういうとこが治らなくて困ってます』と正直に話してくれるようになるんじゃないかな。私もそのあたりには十分配慮しているつもりですが、しきれていない面もひょっとしたらあるかもしれない。多くの普通の医師が、そうした悩みや反省を抱えていると思いますよ」

--最近では制度面での日本医療の改革を望む声も多いですが?
「アメリカ型の医療制度へ強く傾いているいまの改革論には疑問もあります。日本の医療はフリーアクセスという利点がある。アメリカなんかでは、自分の契約した保険会社の指定した病院じゃなきゃ診察が受けられない(指定病院外でも診察は受けられるものの保険が適用されないため、非常に高額となる)。よく医療制度では3つの重要なポイントが挙げられる。それは『コストとクオリティとアクセス』。このうち2つはチョイスできるけど3つは難しいと言われてます。最近、サラリーマン世帯なども3割負担となりましたが、それでもなお、日本の医療での個人負担は先進国中、低額な部類に数えられています。となると日本の現在の医療でなにがいちばん不満か?」

--クオリティですか。
「そう。病室が狭いとか長い時間待たされるとか……ほかの2つはフリーアクセス、コストも先進国の中ではイギリスと肩を並べ一、二の安さ。あながち悪い状況ではない。ただこれから政府は、財源不足を理由にコストを下げようとしています。コストがいま以上にどんどん下がっていって、はたして患者側が期待するクオリティが今後かなえられるようになるのか? それははなはだ疑問と言わざる得ない。医療改革に関してはこれからもっともっと多くの議論がなされていくでしょうが、一般の方々にも関心をもってもらわなければいい方向にはいかないんじゃないかと憂慮してます」

--最後になりますが、先生の今後の夢は?
「夢か……そう……クイーンエリザベスに乗って世界一周してみたいなぁ。子供の頃ね、僕は船員になりたかったんです、船乗りに。なんていうかボケッとしてるの好きな子供だったのね。それでまあ、船の上だと青空見て、ボケッとするのにはいいかと……子供の時だから単純なんだよな。だからいまは、長い休暇ができたらのんびりと船旅ができたらうれしいね、奥さんと一緒に。えっ? 豪華客船では毎晩ダンスパーティがある? あ、どうしよ、おれ苦手なんだよな女性と腕組むの……」  <了>

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