城整会報「ロコモティブシンドローム

医療法人あいびー院長/佐々木整形外科麻酔科クリニック

(医社)東北福祉会理事長/介護老人保健施設せんだんの丘

佐々木信之


 ロコモティブシンドローム(ロコモ・運動器症候群)とは、日本整形外科学会が、2007年に新たに提唱しましたもので、骨、関節、筋肉などの運動器の機能が衰えて生活の自立度が低下し、要介護や寝たきりになる可能性の高い状態をいいます。ロコモでは、運動器の障害を、個別の病気としてだけでなく、加齢などによる全身の変化がその部分に現われているのではないか、と捉えています。これまでにない新たな概念であり、新たな言葉、ロコモティブシンドロームの誕生が必要となりました。

高齢者においては、骨粗鬆症、下肢の変形性関節症や関節炎、脊椎の変形による神経障害など、それぞれの障害がたとえ軽度でも、機能的に連動しながら身体運動を支えている運動器の障害が重積することで、移動や歩行に支障をきたすことが多いのです。ロコモを構成する障害は、メカニカル・ストレスが適正でないことに起因しています。運動器はたえずメカニカル・ストレスを受けています。重力というメカニカル・ストレスを受けない宇宙飛行士が帰還後しばらくは歩行もままならないことはよく知られた事実ですし、逆にスポーツ外傷を負うほどの強度のメカニカル・ストレスもロコモの要因となります。この意味で、人間の一生は運動器の障害と回復を繰り返しながら、要介護リスクが少しずつ重積するプロセスともいえますので、ロコモの予防には高齢者のみならず働き盛りの時期から、メカニカル・ストレスの適正な管理が大切になってきます。

ロコモの原因
 平成19年の国民生活調査で、介護が必要となった原因をみると、脳血管疾患、認知症に次いで、関節疾患、骨折、転倒が占めています(表1)。

運動器の障害の原因には、大きく分けて二つあります。
1)運動器自体の疾患
 加齢に伴う、様々な運動器疾患。たとえば変形性関節症、骨粗鬆症に伴う円背、易骨折性、変形性脊椎症、脊柱管狭窄症など。あるいは関節リウマチなどでは、痛み、関節可動域制限、筋力低下、麻痺、骨折、痙性などにより、バランス能力、体力、移動能力の低下をきたします。

2)加齢による運動器機能不全
 加齢により、身体機能は衰えます。筋力低下、持久力低下、反応時間延長、運動速度の低下、巧緻性低下、深部感覚低下、バランス能力低下などがあげられます。閉じこもりなどで、運動不足になると、これらの「筋力」や「バランス能力の低下」などと、あいまり、運動機能の低下が起こり、容易に転倒しやすくなります。

 

ロコモは「ねたきり」や「要介護」の主要な原因

ロコモは、メタボや認知症と並び、健康寿命の短縮、ねたきりや要介護状態の3大要因のひとつになっています。
 ご高齢の方は、これらの加齢や運動不足に伴う、身体機能の低下や、運動器疾患による痛みや、軽微な外傷による骨折など、多様な要因があいまって、いわば「負の連鎖」により、バランス能力、体力、移動能力の低下をきたし、ついには、立って歩く、衣服の着脱や、トイレなど、最低限の日常生活動作(ADL)さえも、自立して行えなくなり、健康寿命の短縮、閉じこもり、廃用症候群や、寝たきりなどの要介護状態になっていきます。

 

ロコモと運動器不安定症
 トレーニングによる筋力の変化に比べると実感しにくいが、骨も常に作り替えられています。骨強度を落とさないためには、骨が作り替えられるときに運動や重力による適当な負荷がかかっていることが必要です。運動器不安定症という危険水域到達するよりも前に、骨強度や筋力を落とさない工夫を取り入れることが、将来の要支援・要介護状態の予防につながります。ロコモはそのために提唱されました。

運動器不安定症は、いわば「転倒リスクが高まった、運動器疾患」といえます。具体的には、65歳以上であること、運動機能低下をきたす疾患(またはその既往)が存在すること、日常生活自立度判定が、ランクJまたはAであること、運動機能評価テストの項目(開眼片脚起立15秒以下、3TUGテスト11秒以上)を満たすこと、が条件となります図1

 

ロコチェック(ロコモーションチェック)

1)  片脚立ちで靴下がはけない

2)  家の中でつまずいたり滑ったりする

3)  階段を上るのに手すりが必要である

4)  横断歩道を青信号で渡りきれない

5)  15分くらい続けて歩けない

 

これら日常生活で自分でも気づくことができる、5つの項目のうちひとつでも当てはまればロコモが疑われます。整形外科医が外来で相談を受けて、適切な指導を積極的に行っていきたいと考えています(図2)。

 

ロコトレ(ロコモーショントレーニング) 
 ロコモの予防や改善のための運動のことで、転倒予防、骨折予防のために、日々継続して、各自の程度にあわせて安全に運動療法を実施することが大切です。

開眼片足立ち訓練(ダイナミックフラミンゴ療法)=片脚ずつ交互に行ってください。右足立ちで1分間、さらに左足立ちで1分間。朝昼晩、13回繰り返してください。

スクワット(股関節の運動)=5〜6回繰り返し、1日3回行います。
いずれのロコトレもご高齢の方は転倒に注意し机や平行棒につかまりながら行ってください(図3)

 

ロコモの目標

 ロコモの目標は、人生80年時代に寝たきりを作らないことであり、高齢者の自立が保たれ、健康寿命が平均寿命と同じに近づく社会の実現にあります。

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表1:介護が必要となった主な原因

                                ( )

 

脳血管疾患

認 知 症

関節疾患

骨折・転倒

高齢による

衰弱

要 支 援

14.9

3.2

32.7 

16.6

要 介 護

27.3

18.7

17.5

12.5

総 数

23.3

14.0

21.5

13.6

厚生労働省、平成19年国民生活基礎調査の概況(一部改変)

 

図1ロコモと運動器不安定症

無題.JPG

 

 

図2ロコチェック

 

無題2.JPG

 

図3:ロコトレ

 

 

 

 

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